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科学的発見はどう生まれるか<最先端の認知科学が教育にもたらすもの>

ABLE2012は2012年8月5日(日)10:00~玉川大学で開催された。
ABLE(Agents for Bridging Learning research and Educational practice) は、2011年から「教育現場と学問研究をつなぐ」をテーマに活動をスタートした。主催者は慶応大学の今井むつみ氏である。
今回の大きなテーマの軸に「アナロジー(類推)を育てることの重要性」があり、そこに興味があり参加した。
アナロジー(類推)とは、自分が今持っている知識を応用して、問題を解くカギを見つけだす創造性であり、あるいは新たなものを発見していく時の発想の素になりうる思考の仕方である。教師がこのアナロジーを使って教えていくことで子供の学びの理解は深まり、子供が思考の仕方を学ぶことで柔軟な思考力を養えるのではないかというものである。

開催テーマは「科学的発見はどう生まれるか」というもので、安西祐一郎氏(日本学術振興会)が「答えのないことが多い社会であるが、学校の教育は答えがあるものとして教え、答えられるように教えている。科学的発見という視点から考えると、一人で探究でき、チームで探究できる人が科学者であり、そのような人材を育てられる教育を期待している」という挨拶から始まった。
最初のセッションでは、「発見し創造する力を育む教育実践」として、東京コミュニティスクールの市川力氏、玉川大学の小原一仁氏がスピーカーとなった。
二人の共通のコンセプトは、原体験(人格形成する上で大きな部分を構成する体験)の重要性であった。共に教育に携わっている両氏は、生徒の主体性をどのように育むかが教師の役目であると考えていると理解した。日常生活の中でのかかわりから、言語、数量、科学、運動は、勉強としてではなく自然に学びとれる。そして、自ら五感で学びとった経験・認識は複合的な記憶となって応用可能な知識となる。つまり、アナロジーにつながる知識になるというものだ。
就学前の小さい時に、何気ないことから自発的に取り組み、飽きずにしつこくやり続けたことはないだろうか。うまくいかず試行錯誤するのだが、それが楽しい。この繰り返しから自分のやり方を振り返り、見直して再度取り組む、この取り組みの中で多くのことを学び取り、それが原体験を作り出している。そしてこの情熱が粘り強い探究心を生み出すことにつながると語った。

このような挑戦する気持ちから自主性が獲得されることはすでに発達心理学でいわれている。そして学校教育を受けるようになり、いろいろな経験を通して成功体験も持つが失敗体験も持つ。失敗が多いと劣等感を形成しやすくなると言われている。この時期に、仲間と共に答えのわからないものに、一緒に取り組んでやり遂げる経験は、自尊感情を高め粘り強さも養うことになるだろう。しかし、応用する力・答えのないものに取り組む姿勢、そこに教育上の評価の目は今向けられていない。
今は正しい答えを教える教育なのだ。このような教育が「inert knowledge使えない知識問題」として教育のあり方を問われているのであると今後の教育についての課題を述べ締めくくられた。
次にDedre Gentner 氏(ノースウエスタン大学 教授)は、アナロジー研究の世界の第一人者であり、「学習と推論におけるアナロジーの役割」について分かりやすくレクチャーがあった。
アナロジーとは、例えばラザフォードの原子の発見の時にも発揮されていて、彼は、原子を太陽系のようなものではないかという類推をもったという。考えて推論するときは誰でもアナロジーを使っており、子供の認知発達にはこのアナロジーは大切であると彼女は述べた。

科学におけるアナロジーの例としては、

アナロジーとは、現在分かっている「構造」から類推して発想し、「構造が同じ」新たなものを生み出す時に使う、また「構造」が同じものを持ってきて新たな「構造」を説明するのを容易にする思考の仕方である。例えば太陽と原子では見た目は似ていないが、アナロジーを使うことで構造が同じであるという理解は容易になる。
特に概念を教えるときに、類似性(構造上)と対照的なものを比較することで、子供は何が共通なのか、それはなぜかを考えていき、類似性の意味を理解できるようになる。
比較させることが学習を促進させ、アナロジーは構造を取出し転移可能にするものであると力強く熱く語った。

今回セミナーに参加して、アナロジーは、幼児期から自ら考え夢中になる経験の中でアナロジーにつながる知識の素を養い、物事に挑戦する自主性を宿していくことと、自分の発想を仲間と共有でき、お互いに考えを創造していける関係を築くことで養われていくことが理解できた。
自分の発想を共有する前提として、小さい時の経験や仲間と行動と感情を共有していくことが大切だ。それによって自己理解を深めることになり、自分に自信を持って粘り強く探究していくエネルギーが生まれると強く感じた。

小西ひとみ